大隅半島へ ラン探しの記憶 文:廣川浩二

大学時代、野生ランを見に各地の山中を歩きました。そのなかで過酷だったのは、関君と行った九州大隅半島での旅でした。当時どのような話し合いで行くことになったのか憶えていませんが、キリシマエビネを中心に見に行くことになったように思います。アルバイトでいただいた僅かな資金で周遊券を買い、お金がないのでお米とサバ缶をリュックに入れ、いざ出発しました。もちろん自炊のためガスコンロや色々と持っていったため、とても重たかったのを憶えています。その重さよりも、大変だったのは、現地まで2日間かかったことです。周遊券は各駅停車(鈍行)と急行しか乗れず、鹿児島に着いた時は体のゆれがしばらくとれなかったと思います。まさしく、若気の至りで野生ランを見たいという勢いだけで出発した旅でした。途中門司港駅で一泊したのでは?と思います。帰りも同じですが!!

鹿児島の駅から大隅半島行きのバスに乗り、ちょうど半島中心部の停車場で降りました。これらの計画は関君がおこなったため、なぜそこに行ったのか憶えていません。春休みだったと思いますが、南国のイメージの鹿児島は半島中心部に向かうにつけ、雪もあり、後にテントを張った近くの民家にお茶をごちそうにあがったのですが、掘りゴタツだったのを憶えています。川辺のバス停を降り、すぐに関君の案だったと思いますが、橋の下にテントを張りました。すぐに山に行ったかどうか、それとも、お米を川の水で研いで食事したのかは憶えていません。2〜3日たったころテント前の川に突き出た枝にキバナセッコクが着生していて、こんなに寒いのによく生きていけるなと思ったのを憶えています。雨をしのげる橋の下にテントを張ったことは正解でした。

野生ランに関しては、次の日だったのか?わかりませんが、近くの山に入ったと思います。後になり大隅半島含め何度となく九州を訪れましたが、本州の山との違いは、スギ・ヒノキの植林がすごく、これらの木を植えられない場所にしか自然林は残っていなかったと思います。植林下の貧相な林床には野生ランはなく、林道から見えるわずかに残る自然林を目指し急斜面を登ったのを憶えています。その場所へ行くには、猛烈に茂るササ竹のなかをヤブこぎしなくてはならず、体力気力の限界だったように思います。いくら探しても2日〜3日間は何もなかったように思います。3日目ぐらいに関君を先頭に人が入れないくらいのササをなんとか抜けると、林床下にキリシマエビネの群落を見つけた時は、ほっとしたのを憶えています。葉は堅い立ち葉で光沢があり、明らかに地エビネとは違うものでした。ニオイエビネの葉も同じ葉ですが、それより清楚な細葉でした。それ以降色々と地エビネやら発見できました。そのなかで関君がとてもきれいな縞斑のナツエビネを見つけ、よくここまで大きく自然条件下で育ったものだと思いました。山をいくつか越え気付くと山の尾根づたいに海が見えたように思います。半島を半分横断していたのかもしれません。

その日午後になり下山の途中、山の上から林道を見ると何台の車があり、5〜6人の人を見かけました。営林署の人たちとすぐにわかりました。そのうち山に犬を放したように見えました。度胸を決め林道を降りて行くと呼び止められました。話を聞くと、山に人が入ったと部落から通報があり、見つけに来たということでした。私たちのことかどうかはわかりませんが、その日のうちに帰ることにしました。また2日間の電車に揺られ、門司駅の菊花石の置物がなぜか頭に残っています。私はあまりにも過酷すぎて記憶がだいぶ消えています。


コラム筆者:廣川浩二

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