濃溝の滝とあわちどり伝説

蘭花になった笹姫ものがたり 作:花咲か爺さん

 これは私が若い頃アワチドリを探しに行った濃溝の滝近くで出会ったおじいさんから聞いた話です。

 むかし上総の国の亀山の笹と言うところに、久留里の二の姫「笹姫」という心優しくかわいらしいお姫様が暮らしていました。姫は幼い頃から家来の息子で辰之助という男の子といつも仲良く遊んでいました。いつしか2人は身分違いのかなわぬ恋とわかっていても惹かれあうようになりました。

 しかし、ある年の春のこと、年頃となった姫に下総の城主の息子との縁談が持ち上がったのです。一目見た瞬間、姫を気に入ってしまった城主の息子は、当然、笹姫と辰之助の仲を快く思うはずはありませんでした。二人の仲を妬ましく思った城主の息子は、2人を引き裂くために辰之助に無実の罪を着せ、策略により生まれ故郷を追い出してしまったのです。辰之助は笹姫に「7月7日、国境(くにざかい)にある香木原(かぎばら)の峠で待っている」とだけ言い残し、隣国の安房の国は鴨茂(かも)の打墨(うっつみ)へと旅立ちました。

 そして7月7日の朝早く、笹姫は子供のころから可愛がっていたカメをお供に、人目につかないようおよそ2里先にある香木原の峠をめざし笹川の浅瀬を上へと進みました。ところが、その日はひどい嵐となり、普段は穏やかな清流も大荒れで、ごうごうと激しく音を立てて流れるほどでした。とうとう笹姫はその濁流にのみ込まれてしまい、辰之助と再び会いたいという願いは叶いませんでした。

 後になり哀れに思った村人たちが、せめて笹姫の想いを辰之助のもとまで行かせてあげたいと思い、大きく蛇行している笹川の中をまっすぐ進めるように掘り抜きの洞窟を作りました。この洞窟は、「亀岩の洞窟」といい、洞窟のすぐそばにある笹姫が亡くなった場所は「恋水の滝」と呼ばれるようになりました。時は流れ、「恋水の滝」はいつしか「濃い溝の滝」となり、今では「濃溝の滝」と呼ばれています。 そして「恋水の滝(濃溝の滝)」の近くでは、笹姫が辰之助に会いに行った季節になると、はかなくも散った姫の想いがこの地だけにある可憐な蘭花となって咲き乱れます。村人はこの蘭を安房の国まで姫の想いを運ぶたくさんの小鳥に喩えて安房千鳥(アワチドリ)と呼ぶようになりました。このようなことからアワチドリは願いを叶える希望の花として知られています。

 その後も、辰之助は来るはずのない笹姫に会うために来る日も来る日も峠へと足を運び、ずっと待ち続けたそうです。そしてその想いはいつの日か天高く変わらぬ場所に輝き続ける北辰(北極星)となり、今でも姫の魂を見守り続けています。このことから亀岩の洞窟は別名を北辰妙見洞とも言うそうです。

濃溝の滝

・安房千鳥(アワチドリ)
 この地固有のラン。地元では姫蘭(ヒメラン)と呼ぶ人もいる。稀にハートの形をした根を持つものがあり、上手に育てて綺麗な花を咲かせることができたなら、恋が実る恋愛成就の花といわれています。

・亀岩の洞窟
春と秋の彼岸の頃になると、洞窟に差し込む光が水面に反射してハートの形を描くことがSNSに取り上げられて人気を博してからは「濃溝の滝」として知られている。名前は洞窟の中にある亀の形の岩に由来する。

・恋水の滝
「亀岩の洞窟」から少し離れた場所にあり、現在は「濃溝の滝」とよばれている。


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