僕がみつけた地エビネ アマノジャク 山崎功実

大学へ入学した年のゴールデンウィークに入った頃の話です。以前からジエビネの自生が見たいと思っていた僕は、近くに住む高校時代からの先輩の山本さんの自宅に、ジエビネがいっぱい生えてる場所を教えてもらいに行きました。山本さんは、この辺の里山でたくさん見られるからと、地図上に印をつけてくれました。山本さんいわく「そのあたりのジエビネはみんな何十本もの株立ちになっていることが多いので大株をみつけても根こそぎとっちゃいけないよ。もし気に入ったのがあったなら新芽から数えて3、4バルブのところで切り取って一芽だけもらったら。後ろは必ず残して、間違っても全部とっちゃいけないよ。必ず守ってね。」と念を押されました。

地エビネ'アマノジャク'の子孫

次の日の早朝、自分の50ccのオートバイにまたがり千葉市稲毛の自宅を出発。家から約20kmほど離れたところにある里山、長生郡長柄町へと向かいました。山本さんに言われた通り、大通りから集落の中を通り抜けて田んぼのあぜ道まで来ると、雑木林が入り組むような里山が目の前にありました。そこから斜面を上り林の中に少し入ると、何十本もの株立ちになったエビネが点々とありました。私は何百本もある中から自分が良いと思う個体だけを、言われた通り一株ずつ合計7本いただきました。

地エビネの自生 千葉県にて

今日は日曜日。帰りにそのエビネを見てもらうため山本さんの家に向かいました。どれどれ。1、2…3本目!その花を見た途端に山本さんの顔色がみるみるうちに変わり、「これとこれの2つ、どこでみつけたかわかる?その場所へ自分を連れてってくれないか。これは素晴らしいエビネだ。カブト咲きがかかった梅弁花、それもきれいな赤花。これは素晴らしい。もうひとつこれもすごい梅弁で舌が大きなきれいな地エビネ…!」と、とても興奮している様子です。山本さんが言うにはカブト咲きと紅色の梅弁でこれほど整った個体は何千本に1本ぐらいしかない素晴らしいものだと言うのです。僕が、「覚えています。」と答えると、すぐ次の日、私は朝からその場所へ再び連れていかれました。

その二つのエビネは、どちらも10本くらいの花茎を伸ばして咲いていました。こうして僕がはじめてエビネを探しに行った日にみつけたエビネのうちの一つは個体名‘アマノジャク’という名前をつけることになったのです。のちに、この地エビネ‘アマノジャク’はふっくらとまあるい、ふくよかな赤花のエビネを作るために欠かせない交配の親となり、現在でもその子供たちは活躍しています。


コラム筆者:山崎功実

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